車窓



もうここには戻らないと荷物纏めて鍵を閉めた
通い慣れた駅への道 誰も見送ってなんかくれない

片道切符握り締めて振り返らないで電車に乗ろう
今日この街を去ることに誰も気付きはしないから

大切なものはそんなに作らないでいたつもり
いつかきっと捨てなきゃいけない日が来るから

夕陽の沈んでゆく様を車窓から眺めていた
ただいまを言う場所が変わるだけ
そう言い聞かせて
ひとり


二度とこない日々を思って泣いてみるのもたまにはいい
相変わらず愛着など湧かない街睨んで

どうでもいいものだって愛しく感じ始める
いつかきっと色形さえも分からなくなっても

朝陽の登ってゆく窓を一人きり眺めていた
おかえりを言う人のいない遠く離れた街で


どれだけ叩き壊しても消えてはくれない思い出があって
その破片が突き刺さるからまだどこにも行けない
帰れない

夕陽の沈んでゆく様を車窓から眺めていた
季節が移ろい過ぎても取り残されたまま
今も






制作:2018/10/26