
先日の文学フリマ京都にて発行されたアンソロジー『𝑠𝑎𝑛𝑎𝑡𝑜𝑟𝑖𝑢𝑚 𝑜𝑓 𝐸𝑑𝑒𝑛』に『硝子のホログラム』という作品を寄稿しました。このお話を書くにあたっての裏話や裏設定などをお話ししたいと思います。ネタバレも含まれますので、未読の方はご注意ください。
まず、当方は医療従事者です。加えて、癌患者遺族でもあります。特に癌患者遺族となってからは、病気を取り扱うものや病院を舞台とした作品を書くことを避けて来ました(未必のトラジェディーのあとがきでも少し触れましたが)。100人いれば100通りである現実を間近で見ているものの、私の浅い医療従事者としての経験・知見では軽率に書けないこと、癌患者遺族として私情が入ること、また、現実を見ているからこそ小説的に面白いものが書けなさそうであること…など、理由は色々ありました。今回、主催の水純みをさんからお話をいただいて、一瞬悩みもしましたが、扱うテーマが架空の奇病であることから、自分の経験を活かしつつも、何か新しいタイプの作品が書けるかも知れないと思い、今回のアンソロジーの執筆陣の仲間に入れていただくことを決意しました。こうして見返しても豪華な執筆陣ですね…!あいうえお順とはいえ、自分の名前が一番に来るのを見た時は心臓がばっくばくでした(笑)
普段私が書いている世界観とは少し違いつつ、“生きて行く上で諦めたものを抱えた女性”、“葛藤しながらも日々を生きる女性”という、いつもと変わらないテーマも盛り込んでいます。自身の看護師としてのキャリアに悩む朝木陽奈、突如ミュージカル女優としての道を絶たれた花枝千晶、幼い頃から死ぬまでエデンで過ごすことが決まっている氷見双葉、この三人の設定を作った時、それぞれを深堀りしたくて、視点の切り替わる四部構成としました。漫画と違い、よほど上手く書かなければ小説で視点の切り替えは難しいですし、ああしたことで分かりやすくなってくれたかなと思います。
おかたい前置きはここまでにして、ここからは本当に裏話的な、軽く楽しい(?)話をしていきますね。
▼登場人物の名前
当方の作品では、ほとんどの登場人物に意味や共通点を持たせています。未必のトラジェディーでは東西南北など。今回は、主要の三人以外の登場人物も含め、全員の名前に植物に関連した漢字を入れました。木、枝、葉、草、森など。
奇病患者の千晶、双葉、雪乃→溶けて消えてなくなるもの
陽奈→朽ちないもの、変わらずそこにあるもの(※設定メモまま)
という風に、対称となるように。
▼テーマ曲
三人にはそれぞれテーマ曲もあります。執筆中、視点が切り替わる度にBGMも切り替えていました。
朝木陽奈→リスト『ロマンスS169/R66a』
花枝千晶→ラフマニノフ『ヴォカリーズ』
氷見双葉→ラフマニノフ『楽興の時 Op.16-4』
朝木雪乃→ラフマニノフ『幻想的小品集Op.3-1 エレジー』
ここも名前と同じく対称となるように選んでいます。リストは同年代の作曲家たちの中でも長生きした作曲家なんですね。ラフマニノフは当時の時世もあり、アメリカに亡命後、二度と祖国へ戻れなかったというエピソードを持つ作曲家です。エデンから出ることの叶わない患者である三人の背景をそこに重ねています。
▼設定メモから
私は登場人物の設定の組み立てがそのままプロットのようなものになっています。中には「この台詞を絶対に入れたい!」という台詞から組み立てることもあります。今設定メモのファイルを見返したら、それぞれのキャッチフレーズ的に一つずつ台詞が残っていました。やや表現を変えて入れたものもありますが、せっかくなのでここで披露したいと思います。
朝木陽奈「救いたいとか支えになりたいとか、看護師のそういう気持ちってきっと傲慢なんですよ」
Ⅳで出て来た台詞です。元はⅠかⅢで双葉との会話の中で出て来る予定だったのですが、結果的に千晶を爆発させる煽りの一言になりました。が、常々これは私自身にも言い聞かせている言葉でもあります。何か特別なことができるわけではないという意味で。
花枝千晶『いつ死んだって良かったのに、こんな所に入れられたのが不幸の始まりよ』
残念ながら作中で使われなかった台詞です。地の分にも入れられなかったのですが、ちょっと読み返すと言葉が強すぎる…!死んだも同然、というフレーズは入れていますね。
氷見双葉「看護師さんたちにとってはここはただの職場だろうけど、私たちにとっては生活の場なの。分からないでしょう」
かなり突き放すような言葉だったので、作中はもう少しマイルドにしました。この双葉の台詞が、書き始めるにあたって最初に浮かんだ台詞でした。この台詞に向かって書き始めたところがあります。これは学生時代、授業で先生が言っていた言葉でもあります。確か終末期医療に関する授業だったかな…。
▼その他
森川さんはエデンの中でも勤続年数が長く、最初は血液内科の看護師だったとか、竹井さんは急性期、療養、介護施設を渡り歩いて来た、などのメモが残っていました。
他に表現しきれなかったこととして、些細なことではありますが、Ⅲの双葉視点では、少々文章を稚拙にしている箇所があります。これは双葉が幼い頃からエデンで過ごしており、学校に通えなかったからです(全く勉強していないわけではありません)。多少文章としておかしいところがあるかも知れませんが、敢えてですので首を捻りながら双葉の世界をお楽しみください。
また、この本の裏表紙に、各作品のモチーフが描かれています。全てお読みいただいて、「この作品のモチーフはこれかな?」など、想像してもらえるとより楽しいと思います。

私、自分のはすぐ分かったのですが感動してしまいました…!
アンソロジーを受け取って以降、まだ他の作品を読み始められていないのですが、様々な世界のエデンの物語、私も読むのが楽しみです。残念ながら打ち上げも参加できなかったので、他の方の作品に関する思いや裏話など、私も聞ける日が来たら…!嬉しいなあ…!