“並木夏海を殺したのは自分です”という東有理の懺悔の手紙の一文から始まった小説でした。この話が開始された時点で並木夏海は故人なので、作中一度も並木夏海を喋らせないことを徹底しました。回想の中でこう言った、ということはあっても会話は出て来ていないはずです。
昨今色々と話題に上る性的マイノリティー的な話もちらりとは出て来ますが、何か説教臭いことや啓蒙をしたいわけではなくて、ただ一人の人間が生きて死んだ、ということを書きたかっただけでした。きっと人間は色々な顔を持っていて、有理から見た夏海、はすみから見た夏海、両親から見た夏海、陽加から見た夏海はそれぞれ一致するものはない、当然晶穂の知る夏海とも違って、だから晶穂は迷走してしまい、混乱もして…書いてる私が一番混乱しました!
ちなみに店長が晶穂に話したことはアウティングではなく、夏海が生前店長に何かにあれば晶穂に話してくれ、と頼んでいた内容です。念のため…。
私自身、もう随分前に祖母を亡くしているのですが、とにかく受容ができなくて立ち直るのに何年も何年もかかった人間でした。一時期は仕事もできないくらいに落ち込み、部署異動もしましたし、何もしなくても泣けて来たり、頻繁に祖母や家族が夢に出て来る時期がありました。当時は人が死ぬドラマや映画、アニメさえ見るのが辛く、こうして人一人の死を扱った小説が書けたのは、今だからです。有理も陽加もはすみも、そして晶穂も、きっと受容できるようになるまでの年数は違うのだろうなと思いながら、この小説の終わりを書きました。
続きから細かい裏設定など。
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