
文学フリマ東京40の新刊だった『私の愛したカンパネラ The 2nd movement』は、2022年の文学フリマ東京で発行した『私の愛したカンパネラ』の続編です。初めて出店した文学フリマで発行した作品の続きを書くことになるとは思いませんでした。コピー本では何度か、ヨントリーホールを埋めるような人気デュオになっている二人を書いていますが、その間の二人のエピソードを書きたくなり、続編を書くことに決めました。
2022年に前作を発行してから約3年の間に、私自身も当時よりずっとクラシック音楽に触れる生活をしてきました。私は3歳からピアノを弾いてはいましたが、外でしっかり習ったことがなく、2022年の秋にクラシックピアノを習い始めました。クラシックコンサートにも月に一度は足を運び(特にピアニストのリサイタル)、Apple Music Classicsで日常的にクラシック音楽を聴くようにもなっています。ウェブで『私の愛したカンパネラ』を連載し始めた頃には、まだ行ったことのなかった音楽ホールにも実際足を運び、はすみと春輝が立つ舞台を想像もしました。
3年ぶりに瀬名・城コンビを書いたということで、裏話などを書いて行こうと思います。ネタバレも踏むまれるため、未読の方はご注意ください。
▼音楽を書く
音楽、特にクラシックというとおかたいイメージや苦手な方もいらっしゃるでしょうし、日常的に触れていないと分からない用語ってきっとたくさんありますよね。音楽要素は増やしたけれど、用語だらけで読んでいて分からない話にはしたくありませんでした。まして、本職でもないのに知識をひけらかすようなことはしたくなくて……。おかげで、地の文が説明文にならないようにするのも大変でした。
続きを書けるなら、前作よりももっと音楽について深堀りしたいと思ってはいたのですが、私自身が音楽大学や音楽系の学部を出ているわけでもなければ、本業は音楽とは全く関係がないため、資料を集めたり音楽を表現する言葉の選択に非常に苦労しました。「これが漫画だったらこれ苦労しないのに…!」と思うようなことも多々あり。第一話の春輝の出演したJフィルの公演は、曲のフィニッシュが頭痛ものでした。「もう二度と演奏シーン書きたくない…!」と思うほど(笑)
はすみと清水の二台ピアノも本当に、もう書きたくない……!二台ピアノの演奏シーンが『仮面舞踏会』のみで、『花のワルツ』がなかったのはそういうことです。私の体力がもちませんでした。そういや、いつか二台ピアノを書きたいと思い、昨年の頭には二台ピアノのコンサートにも行きましたね。本作ではピアノを向かい合わせてセットしていますが、横並びにすることもあるようです。プログラムの直前変更もなくはないのですが(経験がある)、ここまで大幅変更は恐らくありません…恐らく……。
▼曲のチョイス
特に、ヴァイオリン曲の選択やコンサートのプログラミングは、いろいろなオーケストラの公演プログラムを調べました。でも書いてる間のBGMとしてずっと聴くことになるので、私の好みじゃない曲は選べないんですよね。クラシックに明るい方は、私の作品に出て来る曲って偏りがあると気付かれるかも知れませんが、ロマン派で短調の曲がものすごく多いです。これは完全に私の好みです。曲を選択したら、次は私が好みの演奏を探します。奏者・指揮者によって演奏は全然違います。演奏シーンは、春輝ってこういう音かも、はすみってこういう演奏かも、という、私の想像に近い演奏を聴いて書きました。
瀬名・城のデュオはヴァイオリン・ソナタだけでなく、ピアノ曲を春輝が編曲していることが多いですが、どう考えてもヴァイオリンでは弾きにくい(らしい)ショパンの曲をいろいろ弾いています。私の趣味です。でも、YouTubeでヴァイオリン奏者の方が弾いていらっしゃるのをみたことがあるので、弾けないことはないんだろうなと。
作中で春輝も言ってますが、ブルッフの協奏曲第三番は本当に演奏機会が少ないらしく、Apple Musicで検索しても録音が少ないです。クララ・シューマンのピアノ三重奏もそうですね。作中で挙げた他のピアノ三重奏の方がメジャーのようです。
▼実在するあれこれ
できるだけ身近に感じてもらいたくて、登場するホールや音楽大学は実在するものを参考にしています。ヨントリーホールは分かりやすいと思いますが、ミュージョン川崎も上野音楽会館もモデルがあり、私もコンサートで訪れたことのある場所です。コンクール名も実際のものの名前をもじったりしました。でもホール名にしても大学名にしても、こう、かっこいい感じのを考えるの難しいですね。
▼松永大弥
新しい登場人物、チェロ奏者で春輝の友人です。カンパネラでは初登場ですが、実は『雨だれは夜明けまで』にしっかり出て来ております。雨だれ~は次の文学フリマ東京での発行を目指しているので、そちらで活躍してもらいたいです。春輝の友人ってどんな人だろう、と思って登場させたのですが、なかなかカンパネラに出て来ない明るい人物になってよかったです。
既に本作を書き始めてはいましたが、今年は初めてピアノ三重奏のコンサート(亀井聖矢さん、東亮汰さん、佐藤晴真さん)と、ピアノとチェロのデュオリサイタル(福間洸太朗さん、宮田大さん)に行くことができました。生かせたかどうかは、分からない…!
男性の名前を考えるのが本当に苦手で、某歌劇団の生徒さんの名前からお借りしました。
▼霜月恵茉
もう一人の新しい登場人物です。はすみが最も長く多くサポートキーボードをしたバンド、REMEDYのボーカルです。なので、はすみは通常のおたまじゃくし楽譜だけでなく、コード譜が読めます。緑黄色社会のキーボードの方がクラシック畑出身で、高いスキルをお持ちですね。
実は本編第二話辺りで非常に行き詰ってまして、2月頃に「今回の文学フリマ東京で発行するのは無理かも知れない……」と思い始めていました(早い)。そんな中、2月末にシンガーソングライターの友人、卯月沙羅ちゃんのライブの物販スタッフをする機会がありました。そのライブを見て、「これでは?」と思い、彼女をモデルにし、登場したのがこの霜月恵茉です。REMEDYもちゃんと意味があってつけたバンド名なので、卯月さん関係各位に気付いてもらえると嬉しいです。

実は、この一冊でピアノトリオのコンサートまで行く予定でした。でしたが、あまりに途中で詰まり過ぎて間に合わず、「二巻まで出したなら三巻もありやろ!」と、「次巻へ続く!」を繰り出してしまいました。次巻は来年どこかで出したいと思っております。
文学フリマ40の振り返り記事でも書きましたが、私は大人気作家でもないので、続きものを作ったってたくさん手に取ってもらえるとは限らないんですよね。けれど、私がカンパネラを書いていて楽しいので、続きを書きます!書きたいエピソードはまだまだあるので、もう瀬名城書きたくない…となるまでは書きます!!もちろん、極力赤を出さないことが大前提ですが、売り上げ度外視で好きにできるのが同人だと思いますので…!書きたいから書く、をこれからも大事にしたいと思います。
BOOTHにて通販も開始しました。次回のイベント参加は少し先ですので、ぜひ手に取ってもらえると嬉しいです。6月末までショップを開いている予定です。よろしくお願いします。
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