文学フリマ東京41の新刊だった『雨だれは夜明けまで』は、2024年にコピー本で発行した準備号『雨だれは夜明けまで』の単行本です。一年かかりましたが、無事に発行にすることができました。2025年に必ず発行することが目標だったので、こうして本の形で出せたことにほっとしています。
2025年は、日本からの注目も高いショパン国際ピアノコンクール開催年でした。ほぼほぼ執筆も佳境に入ってはいましたが、現実のコンクールの途中経過や結果を見ながらの執筆は、どうしても現実に引っ張られそうになること数回。それでも最後まで目が離せないコンクールでした。
ただ、本作は飽くまで架空のコンクールに出場した架空のピアニスト、そんな彼女をとりまく音楽家たちの話です。あまり実際のコンクールとや現実と繋げずに読んでいただけるとありがたいです。
ここからはおかたい話はありませんが、ネタバレを含む裏話になりますので、未読の方はご注意ください。
▼秋月詩織
まず、ショパンを絡めたピアニストの話が浮かんだ時点で名前は“詩織”に決めていました。苗字も含めて完成された美しい名前にしたかったので、苗字にも意味があるようなものにしたく、秋の月と。作中のショパンは漢字は理解できないので、秋月詩織という名前の意味は詩織本人に解説してもらいました。そして、親子関係に難ありな登場人物の多い泉海作品の中では珍しく、良好な親子関係を築いている人物です。
なお、実際のショパンコンクールで私が応援していたピアニストの方も、漢字は違えど同じ“シオリ”という名前だったので、個人的に運命を感じずにはいられませんでした。準備号を書き始めた時には恥ずかしながら存じ上げなかった方なので、決してその方に寄せる意図はありません。
▼ショパンの幽霊(仮)
最初は本当にショパンの幽霊にするつもりではあったのですが、研究家ほど詳しくもないため、ちょっと“ご都合”な感じで登場させました。「大体世間のショパン好きの思い描くショパンってこんな感じだよね~」のイメージを詰め込んだ概念です。史実も逸話もごちゃまぜの存在なので、(ちゃんと勉強している)詩織は最初は混乱していそうです。
ショパンが最後に行ったコンサートのプログラムなども調べ、それに絡めた曲を登場させたかったのですが、一切生かせませんでした。もうちょっとリストについても言及したかったですが、そこを深堀するとどんどん横道逸れていきそうだったので断念。私がもっと勉強したのちに、改めて扱いたいところではあります。
ちなみに、最初はショパンの幽霊(仮)だったのが、最後にはショパンになっているところには気付いていただけたでしょうか。
▼松永大弥
カンパネラ2巻に登場した春輝の友人です。カンパネラ2巻よりも雨だれを先に書き始めていたので、松永さんはカンパネラに逆輸入的に登場させました。雨だれ準備号の頃には、特に松永さんと春輝は友人とは設定していなかったような…。多分、カンパネラ2巻に着手するに辺り、春輝と同じ大学だったという設定に変更したはずです。松永さんに限らず、コピー本と照らし合わせると、変更点や加筆修正がそこそこあったります。
どうしてもコンクール一次通過できず落ち込んでいる最中なので、詩織による先輩の扱いというか、「先輩はああ言ってくれたけど私はこうなの!」が前面に出てしまってますが、きっと時間が経てば、松永さんの言うことも素直に納得できるようになるんじゃないかなと思います。
▼冬部漣
詩織の長年の友人であり、音楽仲間であり、かつちょっとライバル。これまでの作品ではあまり主人公の友人を登場させたことがなかったので、「友達って…なんだっけ……?」と思いながら書いてました。失意の詩織を励ましたかった漣ですが、まあ、落ち込んでいる(同業の)友人を励ますのって難しいですよね。漣本人は気にしていませんが、自分よりよほど世界的な知名度があるとなお。
ちなみに、最初は違う名前を考えていました。初期設定を見ると、冬田流星になってます。詩織の苗字が秋なので、関連付けて季節にするつもりではありました。しかし、ちょっと現代、流星の名で思い浮かぶ顔がいくつかあるので却下しました。
封入した特典ペーパーの漣と松永くんのSSでは、ぜひぎょっとしてもらえたら嬉しいです。私の書ける恋愛描写はあれが限界ではないでしょうか…ちょっと歪んでますけど…。
▼江田夏貴
最初の構想の時点では全くいなかった人物です。ドイツでいきなり出て来たので私がびっくりです。作中ではちょっと可哀想なことをしてしましましたが、きっとこれから詩織はもっと勉強の幅を広げるでしょうから、詩織とのデュオコンサートを開催できる日も近いのではないでしょうか。せっかく夏の苗字を持ってますしね。
▼本作のタイトル
ショパン音楽をお好きな方はぴんときているかも知れませんが、ショパンの前奏曲「雨だれ」から取っています。マズルカとか、ショパンらしくノクターンとかワルツとか、その辺りの単語を入れることも考えたのですが、ちょっと直接的過ぎるな…と思い、雨だれに落ち着きました。作中のショパン曰く、詩織はずっと泣いていたので、その暗喩としても雨だれを使ってよかったです。
特典ペーパーにも書きましたが、雨だれの前奏曲も有名なので、聴いたことのある方は多いと思います。ただごめんなさい、私は雨だれの前奏曲がものすごく好きなわけではないです…(笑)
▼各国の地理
本作に登場した国にはひとつも行ったことがないので、全ての地理はウェブマップ頼りでした。現地の音楽ホール同士の距離とか、空港からホールまでとか、全部マップで調べました。写真でストリートビューを見られるのもありがたいです。そして、日本の音楽ホールは全て実在のホールをモデルにし、名前ももじってますが、海外のホールはどうしても考えられなくてそのまま使っています。検索すると出て来ます。曲のことよりも、地理やホールのことを調べることに時間を費やしました。
ポーランドは今一番行ってみたい国ですが、あまりに飛行機がハードル高いです。友人にはポーランド行ったならついでにオーストリアにも行けそうとは言われましたが、最早未知の世界です。フットワークがすごい。
前述のとおり、実際のショパンコンクールを見ながら終盤書き進めていたので、詩織本人の結果は変わりなくとも、本作のコンクールで優勝したのは誰なのか、とても悩みました。数十年ぶりの女性ピアニスト優勝か、初の日本人優勝か……。結果、詩織の同門の男性ピアニストが、数十年ぶりのポーランド人優勝を飾った、ということで落ち着きました。また五年後、詩織がワルシャワコンクールに挑戦するかどうか…まだ私には想像ができませんが、どう転んでもこれが一番、詩織にとってある未来があるかなと思っています。
ここまでお読みいただきありがとうございました。そして、本作に登場した曲については、また別の記事でご紹介したいと思います。